2026-03-13、
本日の書籍紹介は、「変な心理学」 バズっているアレの正体 と「人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学」 についてです。
『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』の著者は今井むつみ氏で、慶應義塾大学SFCでの最終講義をもとに書かれたものです。
この2冊は、実は日本の認知心理学の立場がよく見える対照的な本です。
・山田祐樹 → 心理学の誤解を正す(心理学方法論)
・今井むつみ → 人間の思考の本質(認知科学)
「心理学」は、人間の行動に現れる現象やパターンで、「脳」の機能により人は制御されていますので、再現性の低い、実にあいまいに感じます。なぜなら、「脳」は生後その人が育った環境などにより感じ方が違いますし、脳の配線もそれぞれ違いがあります。
心理学を理解する上では、脳の機能、脳神経学を学んでいないと、脳の傾向(心理)だけしか分かりませんので、知識の幅を広げる上で学びを広げてください。
<目次>
第1章 変な心理学
第2章 カラーバス効果
第3章 ウィンザー効果
第4章 逆カラーバス効果
第5章 蛙化現象
第6章 どうしてこうなった
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◇山田祐樹
1981年生まれ。心理学者。2008年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。博士(心理学)。現在、九州大学基幹教育院准教授。
<目次>
開講 AI時代を幸せに生きるには
そもそも私たちは、「客観的」に世界を見ることができるのか?
「記憶」はあまりにも脆弱
人は基本的に「論理的な思考」が苦手である
「確率」よりも「感情」で考えてミスをする
「思考バイアスに流されている状態」は、思考しているとはいえない
スキーマがあって初めて、高度な思考が成り立つ
情報処理能力や記憶の制約が生み出した人間独自の思考スタイルとは?
アブダクションによって人は、知識を拡張し、因果関係を解明し、新たな知識を創造している
一般人と一流の違いは、アブダクションの精度にある
AIは記号接地しない=新しい知識・生きた知識を生み出さない
AIが生み出すのは、「一般人の平均値」。唯一無二のパフォーマンスを生み出せるのは、人間である「あなた」「得手に帆を揚げる」という生き方
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◇今井むつみ
慶應義塾大学名誉教授。今井むつみ教育研究所代表。1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。94年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。慶應義塾大学環境情報学部教授を経て現職。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。
1.どちらから読むべきか?
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「自分の脳のバグ」を知って衝撃を受けたいなら:
まずは山田祐樹氏の『変な心理学』がおすすめです。読み物として非常に面白く、認知心理学の「楽しさ」を体験できます。 -
「人生の選択や学びの質」を根本から変えたいなら:
今井むつみ氏らが手掛ける『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』を精読することをお勧めします。こちらは「どうすればより良く思考できるか」という処方箋に近い内容です。
2.心理学を「より良く生きる」ために使う
『人生の大問題〜』や『変な心理学』の著者たちが意図しているのは、心理学を「他人を操る道具」にするのではなく、「自分自身の不自由さから解放されるための道具」にすることです。
「人間は愚かである」と認めることは、絶望ではなく、知性の始まりです。
自分の弱点を知っていれば、それを補うための仕組み(法律、教育、対話のルール)を慎重に設計できるからです。
3.SNSで起きている「心理操作」の実態と、それに抗うための防衛術を整理します。
SNSは、まさに人間の「認知のバグ」や「心理的な弱点」を突くことで利益を上げる構造を持っており、現代において最も心理学が悪用されやすい(あるいは無意識に悪用してしまっている)場所です。
山田祐樹氏や今井むつみ氏の視点を踏まえ、SNSで起きている「心理操作」の実態と、それに抗うための防衛術を整理します。
1)SNSが利用する「3つの心理的脆弱性」
SNSのアルゴリズムは、私たちの脳が持つ以下の性質を巧みにハックしています。
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間欠強化(ギャンブル依存の心理):
「いいね」や通知が「いつ来るかわからない」状態は、脳内でドーパミンを大量に放出させます。これが「スマホが手放せない」依存状態を作り出します。 -
返報性の原理:
「いいねされたから返さなきゃ」という無意識のプレッシャーを利用し、ユーザーをプラットフォームに滞留させ続けます。 -
社会的比較と自己呈示:
他人の「切り取られた最高の瞬間」と自分の日常を比較させ、不安や劣等感を煽ることで、さらなる承認(いいね)を求める行動へ駆り立てます。
2)「愚かさ」が増幅される構造(エコーチェンバーと分断)
ご指摘の「歴史が繰り返される愚かさ」は、SNS上で**「エコーチェンバー(共鳴室)」**という形で加速しています。
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確証バイアスの自動化:
アルゴリズムは、あなたが「見たいもの(信じていること)」だけを表示します。 -
極端な意見の優遇:
怒りや恐怖といった強い感情を伴う投稿ほどシェアされやすいため、穏健な意見よりも過激な意見が「正義」として拡散されます。 -
非人間化:
相手が「画面の向こうの記号」になることで、対面では言えないような攻撃性が解き放たれ、集団心理による「吊るし上げ」が発生します。
3)悪いことに利用されないための「SNS護身術」
心理学の知見を、自分を守るための「盾」として使う方法です。
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「怒り」を感じたら15分置く:
強い怒りを感じた瞬間、あなたの理性(前頭葉)はハイジャックされています。投稿や返信する前にデバイスを置き、脳の「熱」が冷めるのを待つことが最大の防御です。 -
「おすすめ」を疑う(アルゴリズムのメタ認知):
流れてくる情報は「世界の真実」ではなく「あなたが反応しそうな餌」に過ぎない、と自覚することです。意識的に自分と反対意見のソースを確認する「情報ダイエット」が有効です。 -
言語化の精度を上げる:
今井むつみ氏が説くように、曖昧な感情を「認知バイアス」という言葉で正しくラベリングすること(例:「あ、今自分は承認欲求に振り回されているな」)で、衝動的な行動を抑制できます。
4)心理学を「自分を律する鏡」にする
SNSという巨大な実験場において、私たちは知らず知らずのうちに操作の対象になっています。
しかし、「人間は元々これほどまでに脆い存在なのだ」という心理学的な事実を認めることが、操作から抜け出す第一歩になります。
歴史が繰り返されるのは、私たちが自分の「認知の癖」を過信しすぎるからです。
SNSを使うときこそ、一歩引いて「これは私の思考か、それともプラットフォームに踊らされているのか?」と自問する姿勢が、最良の武器となります。
4.心理学とは、人の心や脳を扱うため、これほど、あいまいなものなのか?
心理学が他の自然科学(物理学や化学など)と比べて「あいまい」に見えるのには、構造的な3つの理由があります。
1)「観測者」と「対象」が同じ人間である
物理学なら「リンゴが落ちる」のを人間が外から観察しますが、心理学は「人間の心を使って、人間の心を研究する」という自己言及的な構造をしています。
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主観の介入: 研究者自身のバイアス(偏見)が入り込みやすい。
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クオリアの問題: 「私が感じる赤」と「あなたが感じる赤」が同じであると証明する決定的な手段がまだありません。
2)変数が多すぎる(多要因性)
例えば「水は$100^{\circ}\text{C}$で沸騰する」という法則はシンプルですが、人間の行動には無限の変数が絡みます。
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生物学的要因: 遺伝、脳の構造、ホルモンバランス。
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心理的要因: 過去のトラウマ、性格、その日の気分。
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社会的要因: 周囲の視線、文化背景、経済状況。
これらが複雑に絡み合うため、同じ刺激を与えても、AさんとBさんで全く違う反応が返ってくるのです。
3)「心」を測る「物差し」が間接的
心そのものを定規で測ることはできません。そのため、心理学では「操作的定義」という手法を使います。
例:「やる気」をどう測るか?
アンケートで「やる気がある」と答えた数
作業を開始するまでの時間(秒)
脳内のドーパミン分泌量
机に向かっている時間の長さ
これらはすべて「やる気」の一部を示していますが、「やる気そのもの」ではありません。この「指標(スコア)」と「実体(心)」のズレが、あいまさの正体です。
心理学は「あいまいさ」を克服しようとしている
このあいまさを排除するために、現代の心理学はより「硬い」科学へとシフトしています。
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認知神経科学:
アンケートではなく、fMRIなどで脳の活動を直接スキャンする。 -
統計学の徹底:
数千人、数万人のデータを解析し、(5%以下の確率でしか起こらない偶然ではない結果)という厳しい基準で有意性を判断する。 -
計算論的モデル:
心の働きを数式やアルゴリズムに落とし込み、コンピュータ上でシミュレーションする。
結論:心理学は「確率の科学」
心理学は「100%こうなる」という法則を見つける学問ではなく、「70%の確率でこちらに動く傾向がある」という高い精度での予測を目指す学問です。
その「30%の例外(ゆらぎ)」こそが、人間が機械ではない面白さであり、心理学があいまいであり続ける理由でもあります。
5.脳科学での四つの部位の「複雑な関わり」
脳の部位 側坐核、海馬、偏桃体、前頭前野など、人間特有の「葛藤」がより鮮明になります。
例えば、「ダイエット中に美味しそうなケーキを見た時」の脳内通信は以下のようになります。
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側坐核の点火:
視覚情報が入り、側坐核からドパミンが放出され「食べたい!」という強烈な動機が生まれます。 -
海馬の参照:
海馬が「ここのケーキは以前食べて最高だった」というポジティブな記憶を側坐核に送り、欲求をブーストさせます。 -
扁桃体の反応:
もし「これを食べると太って不快な思いをする(自己嫌悪)」という記憶が強ければ、扁桃体が不安を鳴らします。 -
前頭前野の調停:
最後に前頭前野が「今は夜だから半分だけにする」あるいは「明日運動するから食べる」といった最終的な行動を決定します。
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それぞれの部位を役割ごとに整理すると、人間特有の「葛藤」の正体が見えてきます。
6.心理学をさらに複雑(あいまい)にする理由は、「報酬の感じ方が人によって、また状況によって劇的に変わる」からです。
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アンティシパトリー(期待)の罠:
側坐核は「手に入れた時」よりも「手に入る直前(期待)」に最も激しく活動します。これが、ギャンブルやSNSの通知に依存してしまう理由です。 -
不確実性のスパイス:
「100%もらえる報酬」よりも、「もらえるか分からない報酬」の方が側坐核は興奮します。この「気まぐれな報酬」への反応が、人の行動を予測不可能(あいまいに)にします。

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