【書籍紹介】 トッド人類史入門 西洋の没落 エマニュエル・トッド(著) フランスの歴史人口学者・家族人類学者

2023-04-17、
本日の書籍紹介は、 トッド人類史入門 西洋の没落 エマニュエル・トッド(著)
彼は、1951年生れのフランスの歴史人口学者・家族人類学者です。

今から十数年前、書店で見つけた、フランスの社会人類学者「レヴィ・ストロース」氏の追悼(2009年10月30日没)の書籍が目に留まり、初めて「人類学」というジャンルに興味を持ち、彼の書籍を手にしました。

去年の3月にこんな記事を読んでいました。
なぜ大企業が文化人類学者を“青田買い”するのか─文化人類学のビジネス人類学への系譜とは?
参照は、Biz/Zineの記事です。

「文化人類学とは、同時代に生きる人々の日々の暮らしから、『観察対象の異文化』と『観察者自身の自文化』を同時に発見し、近代社会が前提としてきた“当たり前”を問い直していく態度をとる学問です」

この「人類学」というジャンル、自然人類学、文化人類学(社会人類学)、更に言語学や考古学、民俗学や民族学、芸能も包括するのですが、どちらかと云えば、生物学的特性について研究対象とする「自然人類学」の方が好みですが、「文化人類学」も大切です。なぜ大切かと云えば、世の中の種々の社会問題などを分析する上でも、部分的ではなく人類の成り立ちを知ることが重要な知見になるのです。

ジャレド・ダイアモンド(進化生物学・生物地理学)」博士は自然人類学ですが、「デヴィッド・グレーバー」と「レヴィ・ストロース」はどちらかと云うと、文化人類学(社会人類学)の巨匠です。

1960年代に登場した「構造主義」と云う言葉もここで知り、その繋がりで、「ジャック・ラカン」、「シェル・フーコー」も知ることができました。

エマニュエル・トッド氏は、レヴィ・ストロースの用いた構造主義的手法で人類の普遍性と多様性について考察した。一般に人間が家庭を持ち、子孫を増やしていくという行為は、意識下の普遍的な営みである一方、人類が地域ごとに進歩する過程において多様な相違点が表出する。このように、家族という社会構成要素の性質の相違と類似によって、それぞれの国を分類していくのが、トッド氏が主張する人類学の一端だという。

ユダヤ系のレヴィ・ストロースは、エマニュエル・トッド氏の遠い親戚(祖母の従妹)にあたるそうです。

■『最後の転落』  ソビエト連邦崩壊を予言し、彼を有名にした書籍です。

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕
藤原書店
発売日 : 2013-01-25

1976年、最初の著作『最後の転落』 において、10年から30年以内のソビエト連邦崩壊を人口統計学的な手法で予想し、注目された。この本は 7 か国語に訳され、25歳にして国際的に知られるようになった。

・前年にベトナム戦争が北ベトナムの勝利で終結し、ソビエトの威信が高まる中、フランスでは、ソビエトでは全体主義に順応した新しいソビエト的人間が生まれ育っているので体制崩壊はない、という主張があった。

・これに対しトッドは、
ロシア人女性が識字率上昇の後に出産率が下がるという人類の普遍的傾向に従って近代化していることを示し、ソビエト的人間説を否定した。
また通常は下がり続ける乳児死亡率が、ソビエトでは 1970年から上がり始めたことを指摘し、体制が最も弱い部分から崩れ始めたと主張した。

ソビエト連邦は実際に 1991年に崩壊し、トッドは予言者と見なされることとなった。

トッド人類史入門 西洋の没落
この書籍のおかげで、またひとり、面白い人類学者を見つけてしまいました。
通常の人類学では「レヴィ・ストロース」のように「第三世界」を対象としていますが、トッド氏の人類学は、「先進国」を対象としていますので視点が違うので面白いのです。

目次
1 日本から「家族」が消滅する日――「家族」の重視が少子化を招く E・トッド
2 ウクライナ戦争と西洋の没落――「露と独(欧州)の分断」こそが米国の狙いだ E・トッド+片山杜秀+佐藤優
3 トッドと日本人と人類の謎――「西洋人」は「未開人」である 片山杜秀+佐藤優
4 水戸で世界と日本を考える――日本に恋してしまった E・トッド
5 第三次世界大戦が始まった――弱体化する米国が同盟国への支配を強めている E・トッド
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本書籍を読む上で、読んでおきたい書籍は、「我々はどこから来て、今どこにいるのか? 」です。
他、2冊紹介しておきます。

我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上 アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか?

 

老人支配国家 日本の危機  (文春新書 1339)

目次
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ
Ⅰ 老人支配と日本の危機
1 コロナで犠牲になったのは誰か――「老人」の健康を守るために「現役世代」の活動を犠牲にした
「シルバー民主主義」
2 日本は核を持つべきだ――「米国の傘」は実はフィクションにすぎない
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ――日本に必要なのは「多文化主義」ではなく「同化主義」だ

Ⅱ アングロサクソンのダイナミクス
4 トランプ以後の世界史を語ろう――黒人を“疎外”したのはトランプではなく民主党だ
5 それでも米国が世界史をリードする――民主主義の“失地回復”は常に「右」で起きる
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた――「高学歴の左派」は「低学歴の労働者」の味方ではない
7 それでもトランプは歴史的大統領だった――トランプの“政策転換”が今後30年の米国を方向づける

Ⅲ 「ドイツ帝国」と化したEU
8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する――ユーロ創設は仏政治家が犯した史上最悪の失敗だ
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本』――貧しい人々には「資本の相続人」よりも
「学歴があるだけのバカ」の方が有害かもしれない

Ⅳ 「家族」という日本の病
10 「直系家族病」としての少子化(磯田道史氏との対談)――日本人は規律正しい民族だが“自然人”としての奔放な面もある
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)――女性天皇の登場は、中国の父系文化への反発でもあった
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第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)
ロシアによるウクライナ侵攻を受けての緊急出版。

  戦争を仕掛けたのは、プーチンでなく、米国とNATOだ。
「プーチンは、かつてのソ連やロシア帝国の復活を目論んでいて、東欧全体を支配しようとしている。ウクライナで終わりではない。その後は、ポーランドやバルト三国に侵攻する。ゆえにウクライナ問題でプーチンと交渉し、妥協することは、融和的態度で結局「ヒトラー」の暴走を許した1938年のミュンヘン会議の二の舞になる」――西側メディアでは、日々こう語られているが、「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確な警告を発してきたのにもかかわらず、西側がこれを無視したことが、今回の戦争の要因だ。————————————————————————————-

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