2023-11-15、
本日の書籍紹介は、運は遺伝する: 行動遺伝学が教える「成功法則」 橘 玲、安藤 寿康 (著)です。
知性、能力、性格、そして運まで――。
行動遺伝学が明らかにしたのは、人間社会のあらゆる面を「遺伝の影」が覆っており、それから誰も逃れられないという事実だった。私たちは、残酷すぎる世界の真実といかに向き合うべきか。理不尽を乗り越え、成功を手にするための方法は存在するのか? 人気作家と行動遺伝学の第一人者が徹底的に論じる。
本書籍は、ことし読んだ書籍の中でも、1,2を争うくらい内容が強烈です。ヒトはそれぞれ違うが、親子代々、環境も含めて引きずっているものがあるんだという事を知ることのできる良い機会です。
これからAI(人工知能)が発達してくると人間の仕事には、より高度なスキルが求められる。そのためにはさらなる「教育」のチャンスが必要だと語られることも増えたが、まず「遺伝による差異」が存在することを、「知能格差社会」が広がる事を認める必要もあるのだろう。
生まれた瞬間に、あるいは受精卵の段階で、その子の身体的・精神的な病気や障害の傾向だけでなく、大学を卒業するかどうかや成人後の所得、刑務所に入る可能性まで知ることができる未来が近づいている。
橘 玲さんやってくれましたね。
この書籍を読み始めて、私が認識していなかった言葉が沢山でてきますので、まずは「行動遺伝学」と云う研究です。後はGWAS(ゲノムワイド関連解析:個人のゲノムの全領域について、遺伝的な変異のある場所と表現系の関係を調べる手法)です。
「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」、「分子生物学」などの遺伝子工学については少しは認識がありますが、これは初めてです。 尚、書籍を読む時、今まで自分の知らない言葉が出てきたときには、必ず、あとから調べる事をお勧めします。そうすると、1冊では得られなかった知識が広がります。本を読む「癖」を付けるのは大変ですが、色々な事に興味が湧かなければ、長続きしないでしょう。
さあ、これからたっぷりと、「遺伝ガチャ」と「環境ガチャ」について、「知能格差社会」の真実から遺伝的な適性の見つけ方まで記載されています。
1.過去の忌まわしい歴史
過去の忌まわしい歴史で、優生思想と云う研究もありますが、ナチスドイツ「ヒットラー」のしたことの中で、ホロコースト(ユダヤ人虐殺)は殆どの人は知っているでしょうが、本当はもっとひどい事をしているのですが、これを知らないひとは、大勢います。実は、ホロコースト(ユダヤ人虐殺)の前から始まっていたのです。
1933年に成立した「断種法」の下、ナチスは精神病やアルコール依存症患者を含む遺伝的な欠陥を持っていると見なされた40万人以上の個人を強制的に処分しています。
日本でも、戦後、高度成長の時期に「優生保護法(1948〜1996年)」のもとに、断種措置(不妊手術)を強制的に行ったことが問題になっていますが、ヒットラーは、優生学と安楽死政策を積極的に進めていた。
歴史を調べると、国家による「断種」作戦は、第二次世界大戦後も、最近まで、各国で実施されています。
断種(だんしゅ)とは、精管や卵管の切除手術などによって生殖能力を失わせること。
このように、国家が遺伝的に劣る人間(国民)を排除する動きを見せてきたが、この様な「優生学」的なことが起こらない様にする事が重要になるが、何をもってして社会は「平等」や「公平」といえる状態になるかといった議論は簡単には答えが出ないでしょう。
2.「知能(犯罪性向、あるいは精神疾患)が遺伝するなんてありえない」という虚構の世界
遺伝を人間の領域に持ち込むことはタブーとされていて、1970年代に始まった「社会生物学論争」では、ヒト以外の生き物を遺伝で論じるのは許されるが、人間の能力や性格、精神疾患などにすこしでも遺伝の影響があると示唆することは、ナチスと同じ「遺伝決定論」だとして徹底的に批判され、学者としての社会的存在を抹消(キャンセル)されることになった。
だが、すでに欧米では、ポピュラーサイエンスはもちろん自己啓発書ですら、行動遺伝学や進化心理学の知見を前提とするようになり、日本でも人類史を進化の視点から語るユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』がベストセラーになった。人々はすでに虚構(きれいごと)に気づいており、遺伝の影響を無視したこれまでの学問(とりわけ発達心理学や教育社会学)は10年もすれば捨て去られ、20年後には忘れ去られているだろう。
実は、「行動遺伝学」とは、別の形で「遺伝決定論」を証明してしまった。
【目次】
まえがき――誰も「遺伝」から逃れることはできない
第1章 運すら遺伝している――DNA革命とゲノムワイド関連解析
第2章 知能はいかに遺伝するのか
第3章 遺伝と環境のあいだ
第4章 パーソナリティの正体
第5章 遺伝的な適性の見つけ方
第6章 遺伝と日本人――どこから来て、どこへ行くのか
あとがき――遺伝を取り巻く「闇」と「光」
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まえがき ――誰も「遺伝」から逃れることはできない
この「知のパラダイム転換」を日本で牽引する一人が、行動遺伝学の泰斗、安藤寿康氏だ。今回、安藤氏と対談させていただく機会を得て、自然科学の視点から人間や社会をどのように理解すべきかを縦横に論じていただいた(答えにくい質問にも誠実に対応していただいた)。ここで強調しておきたいのは、本書で紹介する行動遺伝学の知見が、現在ではヒトゲノムを解析する驚異的なテクノロジー「GWAS(ゲノムワイド関連解析)」によって裏づけられていることだ。もはや誰も、この事実(ファクト)から逃れることはできない。
わたしたちにできるのは、それにどう対処するかだけだ。
3.補足説明
2)特定の遺伝子が特定の行動傾向と関連している事がどうしてもわかるのか?
3)ビッグファイブ理論
また、心理学者のルイス・ゴールドバーグが提唱した「ビッグファイブ理論(または五因子モデル)」は、人格特性を五つの大きな要因に分類するモデルです。
- 外向性(Extraversion) : 社交性、活動性、刺激を求める傾向などが含まれます。
- 協調性(Agreeableness): 協力的であるか、信頼性があるか、対人関係での積極性などが反映されます。
- 誠実性(Conscientiousness): 責任感、計画性、誠実さなど、仕事や目標に対するコミットメントが評価されます。
- 情緒安定性(Emotional Stability)または神経症傾向(Neuroticism): 感情の安定性、精神的な安定性、感情の起伏などが含まれます。
- 開かれた心(Openness to Experience): 新しい経験やアイディアへの開かれ具合、想像力、好奇心などが評価されます。
ビッグファイブ理論は、個々の人格特性をこれらの因子に基づいて広く捉えることができるとされ、心理学や人事領域で幅広く利用されています。
4)GWAS(ゲノムワイド関連解析)とは
ゲノムワイド関連解析(GWAS)は、特定の病気や体質の特徴などと関連する遺伝的な特徴を見つけ出すために行われる手法です。
多数の人々のゲノム情報を集めて網羅的に解析し、一塩基多型(SNP、スニップ)という遺伝情報のわずかな違いを探し出します。それぞれの解析では、一度に数百から数千のSNPを調べ、特定の病気にかかっている集団とかかっていない集団との間に見られる遺伝情報の差を比較することで、病気に関連してより多く出現するSNPを特定します。
病気と関連するSNPは、関連する遺伝子を突き止めるための有力な手掛かりとなります。
行動遺伝学などを学ぶときに、もう一冊、読んでおくべき書籍です。
■遺伝と平等:人生の成り行きは変えられる
<目次>
第1部 遺伝学をまじめに受け止める
(遺伝くじ;レシピ本と大学;祖先と人種;生活機会のくじ;自然によるランダムな割り振り;遺伝子はいかにして社会不平等を引き起こすのか)
第2部 平等をまじめに受け止める
(オルタナティブな可能世界;「生まれ」を使って「育ち」を理解する;自己責任?;違いをヒエラルキーにしない世界;アンチ優生学の科学と政策)
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■橘 玲 著
1959年生まれ。作家。
2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部超のベストセラーに。『永遠の旅行者』は第19回山本周五郎賞候補となり、『言ってはいけない――残酷すぎる真実』で2017新書大賞を受賞。著書多数。
■安藤 寿康 著
1958年生まれ。慶應義塾大学名誉教授。
慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。『能力はどのように遺伝するのか』『教育は遺伝に勝てるか?』『「心は遺伝する」とどうして言えるのか』など、著書多数。
■生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋 安藤 寿康 著
<目次>
第1章 遺伝とは何か──行動遺伝学の知見
第2章 学歴社会をどう攻略する?
第3章 才能を育てることはできるか?
第4章「優生社会」を乗り越える
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