【書籍紹介】「ネオサピエンス 回避型人類の登場」 岡田 尊司 (著)  ホモ・サピエンスの変化

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本日の書籍紹介は、「ネオサピエンス 回避型人類の登場」 岡田 尊司 (著) です。

岡田先生。。。。ついに「人類学」「哲学」の領域まで辿り着いてきました。
今回、先生は、本当に色々なジャンルから引用していて、『サピエンス全史』『ホモデウス』の著者ユヴァル・ノア・ハラリも出てきます。

「ホモ・サピエンス」から、新時代の人類を「ネオサピエンス」と呼んでいます。さてこのネオサピエンスは、どのような人類なのかです。

まず、ヒト(ホモ・サピエンス)の事を知るには、精神医学、脳神経学は元より、人類学、生物学、哲学、社会学の分野まで手を伸ばさないと、人類全体を認識することなど不可能です。

「ヒト」とは何者なんだ?、自分は何者なんだ? と思考しようとする時、一つの学問だけでは、絶対に、説明がつかない、理解できない、認識できないのです。

■「ネオサピエンス 回避型人類の登場

—- 目 次 —–
第一章 他人に関心がない人々
第二章 回避型愛着スタイルが拡大する背景
第三章 暴走する進化
第四章 回避型人類の誕生
第五章 回避型人類の特性
第六章 回避型人類の社会と病理
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▮さて、冒頭から「回避型人類」と「共感型人類」と云う言葉が何度も記載されています。

回避型人類」とは。。。
・単独生活が基本
・セックスをしない
・子育てに関心がない
・集団への嫌悪と恐怖
・人より物、物より情報を好む
・ルールと統制を重視する
・キレると何をするかわからない
・蔓延する依存症と刺激中毒
・突然襲ってくる自殺衝動
・死を悲しまない

「愛着障害」について、基礎知識があれば、「回避型」という言葉の意味は捉えることができるでしょうが、知らない方は、何のことを言っているのか理解できず、「そんな大げさな」という感想しか湧いてこないでしょう。

「回避型人類」が、世界を埋め尽くすのか、「共感型人類」との共存が成り立つのか。

面白い考察で、人間社会を構成する「民衆」が、過去、戦争が始まろうとしている時と同じように「思考停止」していれば、と言うより、「養育環境」の劣化により、回避型の人間が増えてしまい、この波を誰も止められないような気がします。

 

1.脳神経細胞の成長について

このメカニズムを知らないと、「回避型人類」と「共感型人類」について、何を言っているのか、理解できないでしょう。まずは、脳神経細胞が、どのように成長するのかについてです。

人間、100%自分の意思で動いていると思ったら、大きな間違いです。

人類の歴史を起こしてきたのは、確かにヒトですが、その「ヒト」を突き動かしているのは「脳」です。

遺伝子的な変化もそうですが、人が母親のお腹から誕生して、養育されて、成人になるまで、どのように「脳神経細胞」が、頭の中で成長・編成されるのか。。。。ヒトの「脳神経細胞」の成長は段階的に発生していて、特に幼児期の「養育環境」などが、「脳」大きく影響を与えているのです。

これを、この仕組みを知れば、奇跡に近いことが頭(脳)の中で起こっていることを知る事ができます。

約1千億個の神経細胞(ニューロン)と100兆個の「シナプス」で、神経ネットワークを形成しています。そして、それをバックアップするために、グリア細胞がアストロサイトを形成して、脳神経細胞の面倒を見ています。

脳内ネットワークの情報伝達は「デジタル信号」ですが、うまくできていて、ダイレクトに情報が伝わらないように、「シナプス」が介在して、神経伝達物質により、次の神経細胞に情報を調節しながら転送しています。

この脳の素晴らしい「仕組み」を知るだけでも、感動します。

この脳神経細胞のネットワークが大きく編成するタイミングで、何らかの要因(DV、ネグレクトなど)で不具合・失敗が発生すると「バケモノ」のような脳をした人間が現れます。

「愛着障害」もその一つでしょう。

何も知らない人は、結果、そうなった人間ついて、目に見えないので、どうしてそうなったかを知らない。 せいぜい、「性格のせいでしょう」くらいの認識でしかないのです。

全然違います。

人間は、劣悪な環境で育てば、自分がどんなに正常でいようとしても、正常にはならない場合が多いのです。 それは、脳の配線が、自分の意思とは関係なく、成長過程で歪んだ形で編成されてゆくからです。

そのことを知らないので、「性格のせいでしょう」としか認識できないのです。

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2.脳のトラブルについて

脳のトラブルを大きく括ると、発達障害、パーソナリティ(人格)障害、愛着障害の3つに分類できるように思います(他にもたくさん、脳の配線に問題のある障害もありますが)。

1)愛着障害について

その中で、まず、愛着障害の「愛着」とは何ぞや。。「愛着」がなぜ必要か。。。という処から。

幼児は、生後6ヶ月頃より、2歳頃までの期間に、身近な特定の養育者に対して守ってくれる人に依存する感情「愛着」を抱きますが、これが満たされない状態で養育されると、成長過程で「愛着障害」になります。

三つ子の魂、百まで」と云いますが、まさに、このことで、3歳位まで、自分が安心できる居場所(安全基地)が無い状態で、育つと、人との関わりで、色々な問題を引き起こしてしまいます。

人間の脳は成長過程の中で、徐々に配線(脳内ネットワーク)が組まれて行きますが、劣悪な環境下では、それが阻害されると言うことです。

幼児が、お母さんにべったりで、居なくなると泣き叫びますが、だんだん居なくても、泣かなくなるのは、幼児は養育者を、探索のための「安全基地」として使い始め、慣れてくるので、安心できる存在があってこそ、安定した精神状態でいられるのも、愛着を育てる事が出来たからです。

養育者は母親でなくてもいいが、愛着を育てる為には、養育者が頻繁に入れ替わるのではなく、長期的に同じ人が面倒を見る必要があります。

この障害は、発達障害のように先天的な生まれ持った「脳」の障害では無く、生まれてきた後の通常、母親と愛着形成に問題がある場合に生じてくる障害です。

障害というより、「自己防衛本能」に近いもので、脳に異常な思考パターン、行動パターンが固定されてしまう状態になっている。

親にネグレクト、虐待(DV)されたり、親と早くに死別したりすることが原因とされていますが、親自身が被虐待児だったり、人格障害・精神障害を抱えていたり、親同士が不仲で離婚していたり、子供は親を選べませんので、被害をもろに受けてしまいます。また、極端に「過保護」に育てられた場合も、同じような症状をきたします。

人類も、その他の哺乳類も同じですが、脳の構造、仕組みによるところが大きいように思います。脳は、情報を伝達するのに「脳内神経物質」を使って、前頭前野、側坐核、偏桃体、海馬などと連携を取り、人格を形成するのですが、生後、生き物として育つのに重要な行動が阻害されると、成長してからも、脳のネットワークの連携が変化してしまい、上手くゆかなくなるのです。

ですので、脳の仕組みがある程度、出来上がる歳月の間は、ちゃんと母親など特定の面倒をみる人が必要なんだと思います。

母親から離された時の行動と、母親と再会した時の行動パターンの分類

・安定型(60%強)
再会を喜び、近寄ってくる(通常の愛着行動)。

回避型(15%から20%)
引き離されても、ほとんど無反応、再会しても、目も合わせず近寄らない。

・不安型(10%程度)
引き離されると泣き叫んで、強い不安を覚えるが、母親と再会した時は拒絶してくる。

・混乱型
回避型と不安型を併発している。虐待を受けている子供や精神的に不安定な場合に多い。

ADHD、ASDなどの発達障害は、ほぼ生まれつきのものですが、「愛着障害」は、主に幼いころの養育・人間関係などの環境要因に基づくものです。そして、ちょっと厄介なのが、発達障害愛着障害は、とても見分けにくいことがあるようですし、この生まれつきの障害により、「愛着障害」も一緒に発症してしまうことも、あり得ることでしょう。

もう一つ、
医学的に「パーソナリティ(人格)障害」などの精神疾患としてとらえがちな症状は、実は、「愛着障害」のパターンが、非常に多いと云っています。

関連記事2
・【書籍紹介】「死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威」 (光文社新書) 岡田 尊司 (著)
・愛着障害について 「愛着」とは何ぞや。。「愛着」がなぜ必要か

 

2)ASD(自閉症スペクトラム症)について

大好きな番組の1つに、「阿部寛」さん主演の「まだ結婚できない男」という番組があります。「まだ結婚できない」のは結果論で、結婚できない理由は、もう観ていてすぐ分かるのですが、そこは「ぼかして」います。

しかし、「まだ結婚できない男」は、発達障害のASD(自閉症スペクトラム症)に極めて近い人物像とすぐに分かるのですが、普通の何も知らない人は、ただの「偏屈男」くらいしか認識できないでしょう。

人と上手く接する事が出来ない、共感能力が極めて低い「脳神経細胞のネットワーク」をしている様子が、実に面白いのです。 次、何を云うのか、どんな行動をするのかまで、先が読めて、その通リになるので、爆笑するほど、面白いのです。

ASD(自閉症スペクトラム症)って極めてわかりやすいのですが、共感能力が普通にある人からみれば、何この人、変な人と感じてしまうだけなのです。 悪い人ではないのですが、自分をよく見せようとする「心」の配線を持ち合わせていないのです。

3)ASD、ADHDの共通の特徴

自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)

「ASD」、「ADHD」の人たちの共通する特徴で、一番押さえておきたい点です。

通常、私たちはみんな「報酬」を得られる行動を無意識に繰り返す傾向があります。

つまり、空気を読んだり、忖度したりする。相手に興味が無くても、ある振りをする。

通常、自分にとって好結果をもたらす行動はどれかを「無意識」で学んでいける心を持っていますが、彼らには、その「心」が無いのです。 無意識で学んでいける、感じ取る「脳」の配線がないのです。 正確には、脳内ネットワークの情報伝達に問題があるのです。

ですので、普通の人か普通にやっている事が、脳のせいで、感じ取ることができないのです。

ただ言葉で、例えば、それは「出世に響きますよ」と言われると、まずいという事には気が付くのです。

特にASDの場合、自分の心の中に「他人」は、いないのです。 つまり、認知的な「共感力」が無いのです。

他人がどう思うかと云う感じ取る「脳の機能」が働かないのです。

悪気があるのではなく、自分に取っての「報酬」を求めていないので、他人に関して無関心で居られるのです。

ある意味、素晴らしいのです。

回りに気を使わない、こんな人でないと、世の中で「イノベーション」は起こせないのです。

しかし、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズなど「イノベーション」を起した成功者ばかりではなく、世の中で生きにくい生活を送っている人たちのほうが、圧倒的に多いのですが、それが逆転する日が近づいているのでしょうか。

 

3.人類について

人間なんて、生きていられるのは、たかが百年くらいですが、生きている間に、自分が何者なのかも、考えずに死んでゆく人が殆どでしょう。

自分が何者なのか? を知ることが、良いことなのか、無駄なことなのかは、分かりませんが、この世に人間として生まれたのですから、少なくとも、高度な「脳」の仕組を持った生き物として、自分の寿命が尽きるまで、他の動物とは違う生き方を、暇つぶしの人生を送りましょう。

類人猿から枝分かれして、数十万年前に誕生して以来、ネアンデルタール人達が絶滅して、ヒト(ホモサピエンス)だけが生き残ってきました。本当は、黒人も白人も黄色人種も関係ない。ヒトのオリジナルは、まぎれもなく「黒人」で「白人」は単に突然変異でしょう。

そんな昔の事は、人類学、考古学の研究者たちの研究により、少しづつ分かってきていますが、過去、2千年くらい前から現代までの人間の所業は、勝者の歴史として、残っていますので、どんな変化が起こってきたのか、すこしは理解できます。

喜びを感じる仕組み

喜びを感じる仕組みは、生存にとってきわめて重要である。人類は、大きく分けて3つの喜びの仕組みを持っている。

1つ目は、
食欲や性欲といった本能的な欲求を満たした時に得られる満足感や快感

2つ目は、
努力して何かを達成したり、習得したりすることで得られる達成感で、ドーパミンという神経伝達物質が、線条体という脳の領域で放出されることで得られる喜び。

3つ目は、
愛する者と触れ合ったり、世話をしたり(されたり)する関わりの中で得られる喜びでオキシトシンを介した仕組みである。 愛着を支えているのは、このオキシトシンである。

この中で、3つ目が、欠落すると、どのような人間が多くなるか? これも興味深く、読んでいるうちに、恐ろしくなります。

まるで、映画「ターミネーター」の「T800(シュワちゃん役の未来から来たロボット)」のような、感情の欠落した人間であふれかえる様になる。

ですので、私の感想では、AI(人工知能)の飛躍的進歩でシンギュラリティが起こるのではなく、人間が、退化して、ロボット並になり、人類がロボットに近づいてしまう現象が数十年後に起きる。

「回避型人類」が多数を占めるようになれば、こんな風に人工知能ロボットが、社会の中で、あまり違和感なく受け入れられるのではと思います。

共感型人類からして観れば、不気味な世界に見えるでしょう。

 

4.人工知能との共存

この書籍を読んでいると、人間性の極めて低い人類が増えれば、人工知能によるシンギュラリティは、もっと早く到来するのではと思ってしまう。

回避型人類は、AIと親和性が極めて高いと言う点が不気味なのです。

なぜなら、人間らしい共感力も無くていいなら、映画「ターミネーター(T800)」クラスの人工知能ロボットなら完成するでしょう。 映画「ブレードランナー」に出てくるアンドロイドは無理でも、外見が人間とそっくりで、元々、共感力の無いロボットなら、「ネオサピエンス」となら、心がなくても、問題なく受け入れるこことが可能でしょう。 だって、もっとも人間らしい、人間の心を失っている点では同じなんですから。

人工知能が人間の能力に近く様に進化、技術革新するのではなく、人類の方が退化して知能は高いが、共感力のないポンコツ人類が増えて「人工知能」が勝手に人間に近づいてしまうことです。

そうすれば、人工知能の開発に努力しなくても、簡単にシンギュラリティが来てしまいます。

皮肉な言い方ですが、一番、現実味のある不気味な未来なような気がします。

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