「記憶を思い出すための神経回路を発見」脳の謎についての研究成果です。 脳の仕組みが、徐々にですが解明されてきています。

2017年8月18日、
理化学研究所は、脳科学総合研究センターの利根川進センター長、ディラージ・ロイ大学院生らの共同研究チームが、マウス脳の海馬支脚を経由する神経回路が、記憶の想起に重要な役割を果たすことを発見したことを発表しました。

この成果は、米国の科学雑誌「Cell」8月24日号に掲載されるのに先立ち、18日のオンライン版(8月17日付)に掲載された。脳の謎についての研究成果です。

自分自身の「脳」に興味のない人には、何のこっちゃ? と思うでしょうが、最近では、「人工知能」が、チェスや将棋の世界はもとより「囲碁」の世界でもプロに勝ったりと進化が進んでいますが、脳科学の分野も、この謎だらけの「脳」の色々なことが、研究が進み速いスピードで分かり始めています。

科学者の間でも、科学の最後のフロンティアは、「宇宙物理学」と「脳科学」と言われているほど、謎だらけの存在ですので、非常に興味が湧きます。

最近、優秀な「人工知能」が出てきていますが、「脳」の最大の謎「意識」はどこのあるのか?。これはどんなに優秀な人工知能でも、「意識」を持った人工知能は不可能でしょう。弱に云えば、「意識」を持てば、人工知能ではなくなります。 脳だけの人間です。

脳の構成部品として、前頭葉、前頭前野、側頭葉、海馬、偏桃体、大脳基底核など、色々な機能を有した部品がありますが、脳の仕組みが、徐々にですが解明されてきています。

1.海馬

今までの知識では、海馬は、大脳に記憶を格納するための「関所」に様な機能を持ってるのでは、という事までは分かってきています。

1)海馬の機能

「海馬」は、コンピューターで云えば、一時記憶装置の様なもので、1か月くらいしか記憶できません。同じ情報が何度も入力されると、海馬は、これは重要なんだと勘違?いして、大脳に記憶(情報)を転送します。 そして重要でない記憶は時間が経つと海馬から消えてしまいます。 ですので、試験前の一夜漬けの勉強は、1か月で忘れてしまいます(というより、記憶が消去されてしまう)。

しかし、遠い過去の事も覚えているとはいえ、脳細胞より小さな「分子レベル」でいえば、常に入れ替わっています(動的平衡)ので、楽しいこと、苦しいこと、いつまでも忘れないでいられるのは、記憶されているからではなく、ときどき思い出すからいつまでも覚えているだけの事かもしれません。 ですので、記憶など、操作をすると、幾らでも歪めることが可能です。

 

2)「海馬」の構造

海馬」は、この他、ロンドンのタクシー運転手は、海馬が発達していると言われています。何故なら、ロンドン中の道(地図)を詳しく覚えないと、タクシーの免許がもらえないそうです。

しかし、記憶を海馬から大脳に送って記憶することは、分かっていましたが、その記憶をどのように再生(起想)するのか、記憶は「エングラム細胞」と呼ばれる海馬の特定の細胞群に書き込まれ貯蔵され、そして再び活性化されることで思い出されるそうですが、記憶を思い出す神経回路で、それぞれがどのようなプロセスで起こるかは、明らかではありませんでした。

「海馬」は、いくつかの領域に分かれ、互いにつながって局所回路を形成していて、海馬の歯状回に入った情報は、そこからCA3CA1領域とそれぞれ伝達していき、嗅内皮質前頭前野などへ送られます。


特に背側CA1領域からは、
・直接「内側嗅内皮質」の第5層に情報を伝える直接経路(記憶の書き込み)
・「背側海馬支脚」を経由して「内側嗅内皮質」の第5層に情報を伝える間接経路(記憶の想起)

それぞれの経路が果たす役割はよく分かっていませんでしたが、海馬の2つの局所回路が役割を分担していました。研究した結果、直接経路は記憶の書き込みに、間接経路は記憶の想起に、それぞれ重要であることが分かったようです。

今回の実験では、恐怖の情動反応を使って、マウスに電気ショックを与えて実験していますが、「恐怖」と云えば、「偏桃体」を取ってしまうと恐怖が無くなると言われている部品である「偏桃体」も重要な部位なのですが、この実験では「偏桃体」の仕組みにには触れられていませんでしたが、「恐怖」の記憶を再生する時に「偏桃体」からの入力信号も関係がある様な気がします。

 

2.補足説明

■海馬、海馬支脚、歯状回、CA3、CA1
記憶の書き込み、貯蔵、想起に重要な役割を果たす脳領域である海馬は、側頭葉に位置する。
海馬はさらにいくつか領域に分かれており、お互いに結合して局所回路を形成している。海馬への入力は歯状回(Dentate gyrus)に入り、CA3、CA1領域を通って、海馬支脚(Subiculum)や嗅内皮質(Enthorhinal cortex)につながっている。

■エングラム細胞
ヒトや動物の脳内ある記憶の痕跡を支える細胞で、この神経細胞の活動パターンやそのつながりによって、記憶が維持されていると考えられている。

エングラム細胞は、記憶に対して脳の中で形成される生物学的な構造を指します。
これらの細胞は、記憶の形成、保持、そして必要なときに想起する過程で重要な役割を果たします。

エングラム細胞はいくつかのレベルで考えられます。

  • 分子レベル:記憶が形成された時に活性化され、その活性が保たれる分子があればそれは分子レベルでの記憶痕跡と考えられます。
  • シナプスレベル:記憶の形成に伴いシナプス反応の増強や減弱がおこり、シナプス間での情報伝達効率が向上します。これをシナプスの可塑的変化とよび、記憶痕跡の一形態であると考えられています。
  • 細胞ネットワークレベル:シナプス反応の増強により同時に発火するニューロン群が形成されます。これを神経細胞集成体と呼び、神経回路レベルの記憶痕跡と考えられます。

また、エングラム細胞は、外的情報を符号化し、保持し、必要なときに想起する過程で、脳の各所を記憶痕跡が移動していきます。これを記憶固定化と呼びます。運動に係わる記憶は小脳で行われ、この運動学習に係わっています。

■嗅内皮質
嗅内皮質、または嗅内野は、大脳皮質の一部で側頭葉の内側下部に位置していて、内側側頭葉記憶システムの一部で、宣言的記憶機能に関与しています。海馬へ入力する層と、海馬からの出力を受ける層がある。

嗅内皮質は、側頭葉にある皮質領域で、主にブロードマンの脳地図の28野にあたります。
嗅内皮質は、外側と内背側においてそれぞれ嗅周野(perirhinal cortex)と海馬台(subiculum)と接し、尾側で海馬傍皮質(parahippocampal cortex)と接します。

 

・参照サイト:理化学研究所
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170818_2/

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