2025-07-13、
本日の話題は、前回の記事の続きで、
千々和 泰明さんの『戦争はいかに終結したか』を読まれた上で、「結局、戦争を終わらせるにはどうしたらいいのか?」そして「第三次世界大戦に持ってゆくしか方法がないのでは?」という問いに行き着くのは、非常に現実的で切迫した問題意識の表れだと思います。
そして、「プーチンは、ウクライナ侵攻でトランプの取引には乗らないだろう」という指摘も、国際情勢の厳しさを物語っています。
1.結局、戦争を終わらせるにはどうしたらいいのか? 第三次世界大戦に持ってゆくしか方法がないのでは?
残念ながら、戦争を終わらせる万能薬のような「絶対的な方法」は存在しません。 しかし、本書の示唆も踏まえ、戦争終結のパターンと可能性について考察してみましょう。
1)戦争終結の2つの主要なパターンと、その限界
千々和さんが提唱するように、戦争終結には大きく分けて以下の2つのパターンがあります。
(1)紛争原因の根本的解決(相手の打倒):
特徴:
交戦相手を徹底的に打倒し、その体制や能力を破壊することで、将来の脅威を完全に排除しようとする形。第二次世界大戦におけるナチス・ドイツの打倒などが典型例です。
・メリット: 将来の紛争再発のリスクを極小化できる。
・デメリット: 莫大な犠牲とコストを伴う。降伏を拒否する相手には、核兵器の使用など、より破壊的な手段に訴える可能性も生じる。
ウクライナの場合:
ウクライナが目指すのは、ロシア軍の排除と領土の回復、そして将来的な安全保障の確保です。これは「ロシアによる侵略という紛争原因の根本的解決」を目指すものと言えますが、核保有国であるロシアの完全打倒は現実的ではありません。
(2)妥協的和平(現在の犠牲の回避):
特徴:
戦争継続によって払う現在の犠牲が、将来得られるであろう利益や、将来の危険を回避するコストに見合わないと判断した場合に、一定の条件で妥協し、停戦や和平に応じる形。
・メリット: さらなる犠牲の拡大を防げる。
・デメリット: 紛争の根本原因が残るため、将来的な再発の危険性をはらむ。国民の不満や政治的批判を招く可能性もある。
ウクライナの場合:
ロシアは「現在の占領地の保持」を前提とした和平を模索している可能性があります。ウクライナがこれに応じれば、一時的な犠牲は減らせるかもしれませんが、将来的な安全保障上の脅威は残ります。
2.なぜ第三次世界大戦に「持っていく」という発想が出てくるのか?
「第三次世界大戦に持ってゆくしか方法がない」という発想は、おそらく以下のような思考から来ているのではないでしょうか。
■根本的解決への渇望:
現在の状況(ウクライナでの膠着状態など)において、どちらかの徹底的な勝利が見えない。しかし、妥協では将来の禍根を残すという不満があるため、「より大きな衝突を通じて、根本的に解決するしかない」という極論に至る。
■現状打破への絶望:
既存の外交努力や制裁では問題が解決しない、あるいは時間がかかりすぎると感じられる場合に、究極の手段としての「大規模な軍事衝突」が頭をよぎる。
■核の抑止力への疑念:
核兵器があるため、大規模な直接衝突は起こらないはず、という前提が崩れた場合、「ならば、実際に使うしかない」という考えに至る。
■第三次世界大戦の回避が最優先される理由
しかし、第三次世界大戦は、人類にとって破滅的な結果しかもたらさない可能性が極めて高いため、国際社会はあらゆる手段を用いてその回避を目指しています。
■核兵器の使用リスク:
主要な軍事大国はすべて核兵器を保有しており、全面的な軍事衝突に発展すれば、核兵器が使用される可能性は否定できません。それは地球規模の破壊と、人類文明の存続を脅かします。
■連鎖的な拡大:
現代の国際関係は複雑に絡み合っており、一箇所の紛争が世界的な連鎖を引き起こすリスクが高いです。
■経済・社会システムの崩壊:
大規模な戦争は、グローバル経済や社会システムを崩壊させ、飢餓や疫病の蔓延など、軍事行動以外の形でも甚大な被害をもたらします。
3.戦争を終わらせるための現実的なアプローチ(第三次世界大戦以外で)
では、どうすれば戦争を終わらせられるのか。千々和さんの指摘と国際関係論の視点から考えると、いくつかの現実的なアプローチが考えられます。
■外交と交渉(裏取引、仲介を含む):
双方が「戦い続けるコスト>得られる利益」と判断する時点: 戦争終結には、双方の当事者が、これ以上戦い続けても得られるものが少ない、あるいは失うものが大きいと判断する瞬間が重要です。
この認識を促すために、第三国による仲介や、水面下での取引(領土の帰属、安全保障の保証、経済支援など)が重要になります。
■「面子」の問題:
指導者にとっては、勝利の定義を変えたり、妥協案を「勝利」と位置付けたりする「面子」の確保も重要です。
■プーチンとトランプの取引:
「プーチンはトランプの取引には乗らないだろう」という意見は非常に現実的です。
プーチンは自身の「歴史的使命」や「大ロシア主義」といったイデオロギーに強く縛られており、単なる経済的取引や領土の小規模な譲歩では満足しない可能性が高いです。トランプが提示する取引が、プーチンの目指す「将来の危険の根本的解決」(ウクライナの非武装化・中立化、政権転覆など)にどれだけ合致するかが鍵となります。
ただし、トランプが政権を握れば、欧米のウクライナ支援が大幅に削減される可能性があり、これがウクライナを交渉のテーブルに着かせざるを得ない状況を生み出す可能性はあります。
■軍事的膠着と消耗:
どちらの側も決定的な勝利を得られず、戦い続けることによる人的・物的消耗が限界に達し、これ以上は無駄であるという認識が広がることで、交渉の機運が高まることがあります。ウクライナ戦争も、このような膠着状態が長期化しています。
■国内情勢の変化:
交戦国の国内で、戦争への不満が高まり、政権の不安定化や交代につながる場合、それが戦争終結の引き金となることがあります。ただし、権威主義国家では情報統制が厳しく、民意が表に出にくいのが現状です。
■国際社会からの圧力(制裁、孤立、仲介):
経済制裁や外交的孤立によって、戦争継続のコストを相手国に強く認識させ、交渉に応じざるを得ない状況に追い込む。同時に、第三国が積極的に和平案を提示し、当事国に受け入れを促す。
■まとめ
結局のところ、戦争を終わらせるためには、交戦当事者が「これ以上戦うことは得策ではない」と判断するに至るしかありません。
その判断は、軍事的な状況、国内の政治的・経済的状況、国際社会からの圧力、そして指導者の「損切り」能力など、複数の要因が絡み合って形成されます。
残念ながら、現代の国際社会は、核保有国同士の直接的な軍事衝突という第三次世界大戦のシナリオを絶対に避けるべきである、という共通認識を持っています。
そのため、現在のウクライナ戦争のような状況では、「根本的解決」を目指すウクライナと「現状維持+α」を目指すロシアの間で、双方が妥協できる「痛み分け」の着地点を探る、という極めて困難なプロセスが続く可能性が高いでしょう。
「第三次世界大戦」は、解決策ではなく、避けなければならない最悪の結末です。
国際社会の外交努力、当事国の国内変化、そして何よりも当事者間の「損切り」の判断が、戦争終結への道を開く鍵となる。
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