2024-07-04、
本日のお題は、「自己愛過剰社会」についてです。
現代の日本社会では、「自己愛過剰社会」と呼ばれるほど、強い自己愛を持つ人々が増えています。もちろん、これは日本だけの現象ではなく、米国でも強い自己愛の持ち主が多いため、『自己愛過剰社会』という本が出版されているほどです。
軽い「ナルシスト」ならまだしも、「自己愛性パーソナリティ障害(NPD)」とまで言われそうなヒトが増えてきている問題もあるが、この現象の社会的背景は何なのか?
1.「自己愛過剰社会」の問題
この状況は、自尊心を重視し、自己表現や「自分を好きになること」を促進する社会を築る一方で、ナルシシストを生み出す結果となっています。日本の教育も同様に自尊心や自己表現を重視しており、子どもの欲求を最優先する傾向があります。しかし、甘やかしや褒めすぎる親たちが増えていることも問題であり、自己愛過剰社会を形成している一因と言えるでしょう。
■自己愛が強すぎる人の問題点
1)自分の全てが完璧だと錯覚
2)他者を見下す言動
3)他者からの助言や提案は否定する
4)少しのトラブルでもパニックになりやすい
5)矛盾の多い作り話や嘘を言う
6)困っている自分を助けてくれるのが当たり前という姿勢
7)「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」を嫌がる
2.日本の社会で、自己愛過剰社会を形成している要因で、一番大きな要因は何か?
1)社会の教育の変化の影響:
現代の教育では、「自尊心を持つこと」「自己表現をすること」「自分を好きになること」が重視されています。これらの教育が、自己愛が強い人々、いわゆる「ナルシシスト」を生み出す結果を招いていると考えられます。
2)親の教育態度と影響:
子どもの欲求を最優先し、何でも与える親が増えています。また、「褒めて育てる」ことが推奨されており、これが子どもたちの自尊心を高め、結果的に自己愛を強めると指摘されています。
現在の教育において何が一番問題かといえば、「甘やかし、褒めすぎる親たち」が多いことだろう。子どもの欲求を最優先するあまり、子どもがほしがるものを何でも与えるようになった。また、褒めて育てることが推奨されているのは、「褒めてやれば自尊心が高くなり、ひいては成功につながると信じている。また、褒めれば成績が上がる、褒めれば褒めるほど能力が伸びると思い込んでいる」からだろう(同書)。
3)社会の影響:
自由で民主的な消費社会を築こうとした結果、自己愛が強い人々が増えているとされています。
1980年代以降のメディア文化、特にセレブリティ言説、リアリティTV、SNSなどが、自己賛美の価値観を創り出し、自己愛過剰社会の形成に寄与しています。
これらの要因が相互に影響し合い、自己愛過剰社会を形成していると考えられます。しかし、これらは一部の見解であり、他にも様々な要因が考えられます。自己愛過剰社会の形成は複雑な問題であり、一概に一つの要因を挙げることは難しいです。それぞれの要因がどの程度影響を及ぼしているかは、さらなる研究が必要とされています。
3.自己愛過剰社会の具体的な影響は何か?
自己愛過剰社会の具体的な影響はいくつかあります。以下にいくつかの影響を示します。
1.対人関係の変化:
自己愛過剰な人々は、他人との関係においても自分を中心に据える傾向があります。これは、共感や思いやりが不足していることを意味します。結果として、人々は孤立感を感じ、深いつながりを築りにくくなることがあります。
2.コミュニケーションの問題:
ナルシシストは、自分の意見や感情を優先し、他人の意見を尊重しないことがあります。これは、対話や協力が難しくなる原因となります。
3.ストレスと不安:
自己愛過剰な人々は、自分の評価や成功に異常なほど執着することがあります。このようなプレッシャーは、ストレスや不安を引き起こす可能性があります。
4.社会全体への影響:
自己愛過剰社会は、共感や協力の精神を欠いた社会を形成する可能性があります。これは、社会的な課題や危機に対して効果的な対応が難しくなることを意味します。
総じて、自己愛過剰社会は、個人と社会の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、バランスを保つことが重要です。
4.ナルシストと自己愛性パーソナリティ障害(NPD)の関係について。
ナルシストと自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は密接に関連しています。
■「ナルシスト」は、
自分自身を過度に愛し、他人に自分の素晴らしさを認識させることを好む人を指す言葉として用いられます。一方、「ナルシシスト」は、医学的な観点から考えると「ナルシシズム」という言葉が起源であり、人間が自己愛によって抑うつや自己否定に陥る心の病理を表す用語として使われます。
ナルシストは、内面的な自己価値を見いだせない為、他者からどう見られ、認識され、扱われるかを優先し、賞賛を受けようとします。自己愛過剰社会は、アメリカ文化の中心的な価値観として自己賛美と競争が組み合わさったため、競争に勝つには常に自分を第一に考えるべきだと多くの人が思っていることにも影響しています。
■「自己愛性パーソナリティ障害(NPD)」は、
10種類の診断可能なパーソナリティ障害の1つであり、強大な自己イメージと共感(エンパシー)の欠如によって定義できます。
ナルシストは、内面的な自己価値を見いだせないため、他者からどう見られ、認識され、扱われるかを優先し、特別で重要な存在だと思われるために周囲に気を配り、賞賛を受けようとします。
■「自己愛性パーソナリティ障害(NPD)」の原因は
・生まれてからの過度に敏感な生活
・育ってくる過程での現実から、バランスを欠いた過度の称賛
・親、家族、仲間からの過剰な甘やかしであったり、過大評価
・持っている並外れて優れた容姿、あるいは能力に対する大人からの称賛
・幼少期のころからの激しい心理的虐待
・予測がつかず信頼に足らない親の養育
・親自身の自尊心を満足させるための手段として育てられた結果
5.子供の教育に対する問題点
現在の教育において何が一番問題かといえば、「甘やかし、褒めすぎる親たち」が多いことだろう。子どもの欲求を最優先するあまり、子どもがほしがるものを何でも与えるようになった。また、褒めて育てることが推奨されているのは、「褒めてやれば自尊心が高くなり、ひいては成功につながると信じている。また、褒めれば成績が上がる、褒めれば褒めるほど能力が伸びると思い込んでいる」からだろう(同書)。
もちろん、子どもの頑張りを認めず、叱ってばかりいるのがいいとは思わない。だが、実際にはできていないのに、それをきちんと指摘せず、褒めてばかりいるのは、いかがなものか。このような教育は、実際には大したことがなく、むしろ本当はダメなのに自分をすばらしいとかすごいとか思い込むナルシシストを生み出しやすい。
その典型のように見えるのが『職場を腐らせる人たち』第1章事例8で紹介した20代の男性行員で、高学歴なのに仕事ができず、承認欲求をこじらせているため、常に「自分はこんなにすごいんだぞ」とアピールし、相手を見下さずにはいられない。
—関連記事—
・【書籍紹介】 「職場を腐らせる人たち」 (講談社現代新書) 片田 珠美 (著)
6.「バカに付けるクスリは無い」のと同じ
「狂気を癒す方法は見つかるが、根性曲がりを矯正する方法はまったく見つからない」
私がメンタルヘルスの相談に乗っている企業では、だいたい全員と面談するのだが、周囲から「あの人のことで困っているんです」「あの人どうにかできないでしょうか」といった相談を持ちかけられる人に限って、当の本人は「何にも問題はありません」「悩んでいることはありません」などと答えることが多く、唖然とする。
「根性曲がり」とは、①羨望、②嫉妬、③他人の不幸は蜜の味のいずれの動機からにせよ、他人の足を引っ張るような人間は、だいたい「根性曲がり」だからである。
そもそも、「三つ子の魂百まで」ということわざもあるように、人間の性格は遅くとも18歳を過ぎると本質的には変わらない。精神科医としての長年の臨床経験から私は、17世紀のフランスの名門貴族、ラ・ロシュフコーの「狂気を癒す方法は見つかるが、根性曲がりを矯正する方法はまったく見つからない」という言葉を座右の銘にしている。
ただ、21世紀の現在、さまざまな「狂気を癒す」薬が開発・販売されているとはいえ、当の本人に病識がなければ服薬には至らない。当然、効果は期待できない。このことを読者の方も肝に銘じておくべきだろう。何よりも自分の身を守るために。
参照:「自分は特別扱いされて当然」…日本社会で「自己愛」が強い人が多すぎる「危うい現実」(片田 珠美) | 現代新書 | 講談社(3/3) (gendai.media)
■自己愛過剰社会 著者 : ジーン・M・トウェンギ
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